大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成10年(ネ)995号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

豊和運輸株式会社

右代表者代表取締役

北森康史

右訴訟代理人弁護士

清水伸郎

被控訴人(附帯控訴人)

林昇

右訴訟代理人弁護士

佐藤真理

宮尾耕二

吉田麓人

北岡秀晃

山﨑靖子

主文

一  本件附帯控訴に基づき、原判決主文第二、三項を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、金二八八万〇一三六円及びうち金四万〇一三六円に対する平成八年一〇月一六日から支払済みまで年六分の、うち金五〇万円に対する平成九年一二月三日から支払済みまで年五分の各割合による金員を支払え。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

二  本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ、これを一〇分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

四  この判決は第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)の控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す

2  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人の附帯控訴の趣旨

1  原判決主文第二、三項を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、三三八万〇一三六円及びうち四万〇一三六円に対する平成八年一〇月一六日から支払済みまで年六分の、うち一〇〇万円に対する平成九年一二月三日から支払済みまで年五分の各割合による金員を支払え(当審において、被控訴人が控訴人の経営する運送業において長距離トラック運転手として勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は取下げられ、被控訴人の控訴人に対する金員請求は減縮〔平成一〇年六月から控訴人が被控訴人を長距離トラック運転手として勤務させるまで、毎月二八日限り各九万円の支払請求、慰謝料請求のうち、一〇〇万円及びこれに対する平成九年一二月三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金請求を超える請求は取下げられた。〕された。)。

2  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

3  1項につき仮執行宣言

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり訂正、削除、付加するほか、原判決の事実及び理由第二 事案の概要(原判決四頁三行目から同二二頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四頁三行目から九行目までを次のとおり改める。

「一 本件は、被控訴人がその雇用主である控訴人に対し、〈1〉控訴人が平成八年三月一九日付けでした被控訴人に対する同月二〇日から三日間の出勤停止処分(以下「本件出勤停止処分」という)の無効確認及びこれを前提とした出勤停止期間中の賃金の支払、〈2〉長距離トラック運転手の業務から排除されていた期間の一部についての債務不履行(和解条項の不遵守)又は不法行為に基づく損害賠償、〈3〉一連の不当労働行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。」

2  原判決九頁二、三行目を削除し、同四行目の「3」を「2」と、同六行目の「4」を「3」とそれぞれ改める。

3  原判決一三頁一行目の後に行を改めて次のとおり加える。

「(四) 被控訴人は、本件出勤停止処分により、その期間中の賃金四万〇一三六円の損害を被った。

(五) よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件出勤停止処分の無効確認並びに出勤停止期間中の賃金四万〇一三六円及びこれに対する履行期後である平成八年一〇月一六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

4  原判決一三頁二行目から同一六頁二行目までを削除し、同三行目を次のとおり改める。

「2 争点2について」

5  原判決一六頁四行目の後に行を改めて次のとおり加える。

「(一) 控訴人の営業は、〈1〉特定企業を顧客とした継続的な運送請負業務、〈2〉引っ越し請負業務、〈3〉法人関係の一般貨物運送業務に分類され、そのトラック運転手も、右業務にそれぞれ対応して、〈1〉「専属」担当の運転手、〈2〉「引っ越し」担当の運転手、〈3〉「フリー」担当の運転手に分類されている。そして、「フリー」担当の運転手のうち、片道の走行距離が三〇〇キロメートルを超える運送業務に携わる者が「長距離」トラック運転手であり、これに該当する者は一定の要件の下に長距離手当の支給を受けている。

(二) 被控訴人は、控訴人に入社後、フリーの中距離担当、専属担当、フリーの中距離担当を経て、平成六年一〇月二一日から平成七年一一月二七日付けで解雇処分を受けるまでは、フリーの長距離担当運転手として勤務してきた。

(三) 本件和解条項に「被控訴人を平成八年三月一一日より原職に復帰させ、トラック運転手として就労させる」とあるのは、まさに被控訴人を解雇処分前の職、すなわち、フリーの長距離担当運転手として勤務させることを意味するものである。」

6  原判決一六頁五行目の「(一)」を「(四)」と、同一七頁五行目の「(二)」を「(五)」とそれぞれ改める。

7  原判決一七頁末行の後に行を改めて次のとおり加える。

「(一) 控訴人の業務内容は、大別すると一般貨物運送業務と引っ越しサービス業務とに分類され、控訴人に勤務するトラック運転手は、一般貨物運送業務に従事しながら引っ越しサービス業務に従事することもある。被控訴人の主張するような長距離トラック運転手という職種はなく、ただ、トラック運転手のうち、月所定労働期間中の片道の走行距離が三〇〇キロメートルを超える運送業務に五回以上従事した者については、二万円の長距離手当の受給資格が認められているにすぎない。

なお、被控訴人は、平成七年一一月三日付けで、遠隔地の運送業務の発注荷主である三洋工業株式会社(以下「三洋工業」という)から出入禁止措置を受けていたから、解雇処分前の業務内容としても、長距離手当の受給資格がある遠隔地のトラック運送ではなく、近・中距離の運送業務に従事していたものである。」

8  原判決一八頁一行目の「(一)」を「(二) 右のとおり、控訴人には長距離トラック運転手という職種はないから、本件和解条項中の「原職」とはトラック運転手としての業務を意味するものであるところ、」と改める。

9  原判決一八頁末行を次のとおり改める。

「(三) 被控訴人の主張(五)は否認する。」

10  原判決一九頁四行目を次のとおり改める。

「3 争点3について」

11  原判決二〇頁四行目の「三〇〇万円」を「一〇〇万円」と改め、同行の後に行を改めて次のとおり加える。

「(三) よって、被控訴人は、控訴人に対し、右(一)の債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被控訴人が原職に復帰した平成八年四月分から平成一〇年五月分まで二六か月間の月額九万円の割合による損害金合計二三四万円並びに右(二)の不当労働行為(不法行為)による慰謝料一〇〇万円及びこれに対する履行期後である平成九年一二月三日(原審口頭弁論終結の日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

12  原判決二一頁八行目から九行目にかけての「遠隔地運送業務回数自体の減少により全体としての給料が減少しているから、」を「遠隔地の運送業務の発注荷主である三洋工業が平成九年七月に倒産したことなどにより、遠隔地運送業務回数自体の減少によって、控訴人の従業員である運転手の給料は、全体として減少しており、特に被控訴人の給料減少の主な原因は、右三洋工業から出入禁止措置を受け、三洋工業発注の仕事に従事できなかったことによるものであるから、」と改める。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人の、〈1〉本件出勤停止処分の無効確認及びこれを前提とした労働契約に基づく賃金請求は理由があり、〈2〉控訴人が、被控訴人を長距離運送業務から違法に排除したことなどの不法行為に基づく損害賠償請求は、給料減少分相当額二三四万円及び慰謝料請求のうち五〇万円の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の事実及び理由第四 争点に対する判断(原判決二二頁八行目から同四七頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二二頁九行目の「(各項に掲記のもの)」の後に「並びに弁論の全趣旨」を加える。

2  原判決三二頁九行目の「〈人証略〉」の前に「〈証拠略〉、」を加える。

3  原判決三六頁五行目から六行目にかけての「原告が現在も乗車している」を「被控訴人が乗車していた」と、同九行目の「乗車させていた」を「乗車させ、その後、被控訴人が乗車していた車両番号〈略〉の車は、初年度登録が昭和六一年七月で、運転席のシートやダッシュボードの一部は破損し、必要のないスノータイヤをそのまま装着するなどしていた車であり、さらに、被控訴人が平成一〇年六月から乗車している車も初年度登録が昭和六三年の車両番号〈略〉の車で、エアータンクの空気が抜けたり、排気ブレーキが効かないなどの故障がある」と、同行の「〈証拠略〉、」を「〈証拠略〉」と、同一〇行目の「乗車している車」を「乗車していた車」と、同末行の「乗車している初年度登録が平成三年ころの車であった(」を「乗車していた初年度登録が昭和六三年ころの車であったが、その後、同人は、初年度登録が平成九年三月の車に乗車しており、現在は、他の運転手が乗車する車も初年度登録は平成七年ないし平成九年と、被控訴人の乗車する車に比べはるかに新しいものとなっている〈証拠略〉、」とそれぞれ改める。

4  原判決三七頁一〇行目の「一一月二九日」を「一一月二七日」と改める。

5  原判決四二頁四行目冒頭に「1」を加え、同四三頁二行目から七行目までを次のとおり改める。

「 したがって、長距離運転手という職種が存在することを前提とする本件和解違反の債務不履行に基づく被控訴人の主張は、採用できない。」

6  原判決四四頁五行目の「証拠はないから、」を「証拠はなく、また、本件和解では、被控訴人は、従前の勤務態度を改め、本件和解の成立により復職した後は心を新たに職務に専念することを確約しており、控訴人において、被控訴人に対する出入禁止措置をとった荷主を含め、被控訴人を長距離運送業務に従事させることは可能であったと認められるから、」と改める。

7  原判決四五頁三行目を次のとおり改める。

「四 争点3について」

8  原判決四六頁三行目の「被告からの的確な反証のない本件においては、」を削除し、同四行目末尾の後に「もっとも、控訴人の下で運転手として勤務する被控訴人を除く五名については、うち二名の年収は増加しているものの、他の三名は減少している(〈証拠略〉)けれども、被控訴人ほどには減少しておらず、右被控訴人の差額の平均値が一一万五五〇〇円を超えることなどからすると、経済情勢等の影響もあって、控訴人の従業員である運転手の収入が減少傾向にあるとしても、右認定を左右するに足りない。」を加え、同五行目から同末行までを次のとおり改める。

「 したがって、被控訴人は、本件出勤停止期間経過後である平成八年三月二三日以降、長距離運送業務に従事できないことによって、毎月九万円宛の損害を被っているものと認められ、すでに平成八年三月二三日から二六か月以上が経過しているのであるから、被控訴人が被った損害は、被控訴人が主張する九万円の二六か月分の二三四万円を超えることは明らかである。」

二  よって、被控訴人の請求(当審において減縮された請求)は、〈1〉本件出勤停止処分の無効確認並びに出勤停止期間中の賃金四万〇一三六円及びこれに対する履行期限後である平成八年一〇月一六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払、〈2〉不法行為に基づく損害賠償金二八四万円(給料減少分相当額二三四万円と慰謝料五〇万円の合計額)及びうち慰謝料五〇万円に対する損害発生後である平成九年一二月三日(原審口頭弁論終結の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから、その限度で認容すべきであるが、その余の請求は理由がないから、棄却すべきである。

以上によれば、原判決(ただし、当審において減縮された請求に関する部分)中、不法行為に基づく損害賠償請求に関する部分は、右と異なる限度で失当であるから、本件附帯控訴に基づき、原判決主文第二、三項を右のとおり変更し、本件控訴は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 鎌田義勝 裁判官 小野木等)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例